空になった袋は風に乗る
一人でいるときの緊張感を大切にしたい。
帰りの電車で外にヘビを見かけても、途中下車はせず、スーパーで食材をしっかり選んで買うようになるだろう。
そのヘビは緑一色で、自然に現れたものではなく、誰かが良かれと思って意図的に放ったものだと思いたい。
その方が自然に思えるから。
放った本人は、夕方にはすっかり深夜の顔になっていて、その時間にも関わらず寝るのが遅くなったと思いながら、寝不足気味で床に就くだろう。
スーパーで新鮮な野菜を買い、帰る途中で洗濯物が落ちているのを見つけた。
所有してもいない探偵事務所に帰りたくなり、資料を漁りたいような気持ちになる。
自分の車には段ボールと、用途の分からない鉄の棒が積まれていて、他の誰も乗れない仕様になっていた。
その車に寄りかかりながら、今日はこれで帰るからさと、赤の他人に向けて体で伝えた。
助手席が洗濯物で埋まっていたことがある。
そういう時こそ、知り合いの後輩をいきなり電話で呼びつけたいが、俺は小心者なので、そんなことができる気配はない。
ちょっと服を洗いに行くから急いで来てくれと素直に言えれば、自分の世界だけを気にして生きる理想の大人になれるのに。
そんな大人だったなら、次の日だって主役になっている。
相続の話をしてきたと言いながら、そのままの服で友達の集まりに参加し、妙な注目を集めている。
酒も飲んでいないのに、ドアに顔を押しつけて、その時に焦点になっている部分の情報を言えるだけ言う。
そして、俺が何かを手に持っていた時のことを覚えてるかと精一杯のコミュニケーションを放つが、もちろん誰も具体的なことは返答してくれない。
それでいいと思いながら、帰りの電車でうなだれる。
家に帰ると、いつか病院でもらった薬が袋から漏れ、模様のようになっていた。
もう飲むことはない薬だが、しばらくはなぜか捨てられないだろう。
中身が無くなった袋は、風に乗ってどこかに行ってしまった。
風呂に入りながら、さっきの集まりで他に言えばよかったことを考える。
良い歌は世代関係ないからねと、なんでもない言葉ほど空中に放ってもよかった。
トイレ以外でも見られるように、作業机の上にトイレットペーパー置いてる?それに準ずる行為でもいいけど?
そんなことさえ聞けていれば、映画の感想を聞く事にはならなかっただろう。
いろんな高さの椅子に座り直す、というのを試してみる。
これは良い具合に腰にアプローチされたが、意味のある緊張をみんなに伝えるのは違うと思った。
手に力を入れて、それを緩めると、鍵が手の中に収まっていた。
個人で借りている倉庫の鍵なら、そのまま外に出て開けに行きたかったが、もちろん家の鍵だったので、玄関に置いて電気を消した。
一生懸命なので、布団に就いた時間がそのまま22時だった。