重なっている時期
人と人は、たいてい学校や職場などで、普通に出会う。
でも、もし俺とあなたが特別な出会い方をしていたのだとしたら、それはてるてるぼうずを作る専用の部屋に通っていた時期が、たまたま重なっていた、そんな関係でありたい。
他の誰かとは別の特別な思い出があるとしても、あなたとはその記憶を共有していたい。
こういうことを言うとき、俺はどこか得意げな顔をしている。
てるてるぼうずを作る前の部屋にはロッカーがある。
ここに来る人はどこか楽しそうで、履いている靴がどちらも妙にカッコいい。
スマホなどの電子機器は全てそこに置いておく。
持ち込みが禁止されているわけではないが、てるてるぼうずの近くに電子機器は良くないよねという、なんとなくの暗黙のマナーがある。
作業着に着替え、片手では少し重い鉄の扉を開ける。
部屋に入ると、図工室にありそうな大きめの机が一つある。
その上には、てるてるぼうずを作るキットが16個並んでいる。
キットの中身はティッシュ、輪ゴム、ペン、ひも、テープ。
普段嗅いだことのない匂いがするが、すぐにそれがペンの匂いだと分かる。
未知の匂いなのに、危険な感じがしないので自然と受け入れられる。
そのペンが手についても、服でこすれば問題ない。
説明書は見当たらない。
机の中央に置かれた完成済みのてるてるぼうずを見本にして、黙々と作っていく。
何個か作っているうちに、サイズが小さくなったり大きくなったりするが、誰かにそれを指摘されたことはない。
もし子どもの頃にこの部屋に通っていたなら、俺は見本より大きなてるてるぼうずを作っていただろうが、今の大人の俺なら、なるべく精巧で小さく作って、一緒に作業しているお前に嬉しそうに見せるはずだ。
てるてるぼうずは江戸時代からある。
だから、手だけでなく、歯を使ってひもを絞る仕草もどこか絵になる。
作り終えて空を眺めていると、てるてるぼうずはいつの間にか回収されている。
気づけばなくなっているので、俺たちは一度もどこかに飾ったことがない。
部屋には病院で使われていそうなベッドが一台あるが、アトラクションかと思うほど弾力がある。
奥のショーケースにはマニキュアのような容器が並んでいるが、てるてるぼうずを作る事においては関係がなかった。
作業が終わると、入口に支配人が感謝の気持ちとして何かを置いていってくれる。
そこには、思ったものが実際に置かれる、らしく、同時に何が置いてあるか言い合ってみることになった。
俺が、キュウコンが置いてあると言うと、相手はパンと言った。
感性が合わないねと思いながら、それぞれが頭に思い浮かべたものを持ち帰った。
スーパーで買えるパンを思い浮かべるなんて、少し勿体ない。
出口から見えるコンビナートは一面金色で、稼働している気配がまったくない。
てるてるぼうずを作った帰りは、いつもお腹に何か入れたい感じが明日までしないので、夕飯は自然と一緒に食べずに解散する。
汽笛が鳴り、それがてるてるぼうずを運んでいく音だと分かった。