カーディガン
道を歩いていたら、カーディガンを着てジョギングしている人がいた。
その日は温度も湿度も申し分ない快晴で、きっとその人は最初は散歩をしていて、気分が乗ってきて走り始めたのだろうと思った。
その姿を見て、カーディガンが良く思えてきて、帰りに自分も一着買ってしまった。
翌日、そのカーディガンを着て歩いていると、また同じ人がカーディガン姿で走っていた。
「この人は最初からカーディガンで走っているのか?」という疑問が湧く。
家を出た瞬間は歩いていて、途中から走り出すのか、それとも最初から走っているのか。
それが気になってしまい、カーディガンを着たまま、その人の後を気づけば走って追ってしまっていた。
すると、カーディガンを着た男が二人、一定の距離を保って走るという構図になった。
「カーディガンで走っている俺を見て、さらに後ろから別のカーディガンの男がついてきているんじゃないか」と思えてきて、後ろを振り返った。
誰もいなかった。
代わりに、「来年の秋オープン」と大きく書かれたテナント募集の垂れ幕がかかった、8階建て予定のショッピングモールの建設現場が目に入った。
今は骨組みだけが組み上がっている。
「こんな大きな建物に、今まで気づかなかったのか」と思いながら前を向くと、追っていたカーディガンの男がこちらに向かって走ってきていた。
つけていたのがバレたのかと身構えたが、彼は何も言わずにそのまま通り過ぎていった。
どうやら折り返し地点だったらしい。
街中でのジョギングの折り返しといえば、そこに信号があったり、目印となるコンビニがあって、そこの駐車場に少し膨らむ形で、折り返したりするものだが、その男が折り返した場所、折り返す理由になりそうなものは何もない場所だったのだ。
自分にはない感覚だと思い、追跡をやめた。
この話を友人にしたくなり、その日の夜は友人の家でご飯を食べることにした。
その話を面白おかしく語り、楽しい時間を過ごして家を出たのだが、今の自分は日常におけるセンサーが敏感になっている。
特に触れなかったが、その友人の家には、どこにもティッシュ箱が一つもなかったのである。