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荻窪前

俺は死んでしまい、天国の一歩手前で待機していた。
天界人に「ちょっとここで待っててね」と言われ、案内された部屋は何年も掃除されていないようで、埃っぽい匂いがした。どうやら本当に一時的に待つだけの場所らしい。

窓の外だけが異様で、静かな空気とは裏腹に赤く染まっていた。
「天国にも火事があるのか?」と思ったが、そこは厨房で、おばさんたちが火を恐れず中華料理を作っているだけだった。

「あのチャーハンはいつ食べられるんだろう」と考えていると、「こちらへ」と呼ばれ、滝の中を通り抜けた。

空には斜めに傾いた巨大な円盤が浮かんでいる。
その大きさに似合わず、静かなエネルギーで保たれているのが伝わってきた。

天国での新しい家に着き、電球を取り替える。
家の中なのに、薄いピンク色の風が吹いていた。

電球を替え終えると、いつの間にか俺は屋台船に乗っていた。
どうやら電球を付け替えるという行為は、場所と場所をつなぐ役割を持っているらしい。

上空は夜で、足元の景色は早朝だった。
小麦畑を走る少年の表情はよく見えない。

竜巻が小麦を巻き上げ、小さな島へ運んでいくのを見届けると、そこには重たいピアノだけが残っていて、おばあさんが静かに演奏していた。

天界人から注意事項とルールを説明されたが、俺は死後でも相変わらず人の話を聞いておらず、「ずっと家にいられるんですかね?」と質問をかぶせてしまった。
すると「進んでいれば、きっと外でも大丈夫ですよ」と、まだ理解できない返答を残して歩き去っていった。
壁が少ないせいで、遠くに行ってもその姿が小さく見えていた。

そこへ、80年代のアイドルのような紫髪の女性が現れ、「新しいリネンがあるから」と腕を引っ張る。
「理念?」と一瞬思ったが、案内された部屋にはベッドシーツやタオルが山のように積まれていた。

「リネン室が新しくなったのか」と思ったが、そもそも前のリネン室を知らない。
「使うときはここから取ればいいんですか?」と聞くと、
「ここは本当にただ積んであるだけで、取ったりはしないのよ。少しだけ天界に“重さ”を足すためだけにあるの」と言われた。

そこへ4つ打ちのテクノとともに汽車がやってきた。
「天界にも4つ打ちがあるんだ」と思っていると、運転手が「乗ってください、まだ戻れますよ」と声をかけてきた。
「まだ戻れるのか」と思った瞬間、汽車とは反対方向から「白湯が入ったわよ」と声がした。

白湯が飲みたくて、俺は汽車に乗らず白湯を選んだ。
汽車に乗らなかったことが“本当の死”を決定づけたのだと思い、駅員に「さようなら」と言ったら、
「いや、白湯飲むまで待ってますよ」と返され、まだ生きている側に近いことを知った。

明日はきっと布団で目を覚まし、荻窪の喫茶店に行く。