about

その街の歩道は石畳の

友達に引っ越しの手伝いをさせられた。
業者には頼まず、自分の車に荷物を全部詰めて運ぶつもりらしい。
ただ、車に入りきらなかった分を俺に運んでほしいとのことだった。
残ったのは、大きな植木鉢、一輪車、パーティー帽子。

「じゃあ頼むな」と言い残し、そいつは先に行ってしまった。
当然すべてを一度に持てるわけもないので、植木鉢を抱え、パーティー帽子をかぶり、一輪車に乗って出発した。
なんでこんなことをしているんだろうと思いながら、仕方なく坂を進む。
ここ、地味に緩やかな坂なんだよなと思っていると、魚の骨が宙を泳いでいた。
「どこに行くの」と聞くと、
「もう食べられちまったからな。新しい生き方を探してんだ」と言う。

「お前はお前で重たそうだな。俺は今、人生で一番軽いが。それと、お前、そのライダースジャケット格好いいな」
そう言って、魚の骨はどこかへ消えていった。
そういえば俺は、お気に入りで、買ったばかりのライダースジャケットを着ていた。
確かに魚の骨にも似合いそうだなと思いながら先へ進む。

しばらく歩くと、パトカーがゆっくり横を通り、窓から優しい顔の警官が
「それ、大丈夫か」と声をかけてきた。
「まあ、誰も悪いことはしてませんよ」と答えると、「そうだよなあ」と言って再び走り出した。
後部座席には容疑者らしき人物が布をかぶせられて連行されていたが、その布の中にもう一人いて、二人羽織になっていた。
警察に被せられたんじゃなく、自前の布らしい。
二人で悪いことをしたんだろうか。

疲れたので一輪車を降り、植木鉢を置く。
そこには八百屋があり、一番手前に、ひょうたんのような緑の果物が10円で売られていた。
「これなんですか」と聞くと、「10円になります」と言われたので、10円払った。
かじると、ほどほどに固く、少しだけ甘かった。
今日の夜には食べたことも忘れているだろう。

隣には服屋のようで、しかし服は置いていない、外見だけの店があった。
ショーケースの中では、自分の顔そっくりのマジシャンがマジックを披露していた。
自分がマジシャンだったらこんな感じなのかと思っていると、マジシャンが手をパチンと鳴らし、俺のポケットを指さした。
触ってみると封筒が入っていて、中をそっとひっくり返すと鍵が出てきた。
何の鍵か聞こうとしたが、もうマジシャンはいなかった。

喉が渇いたので、隣の薬局に入って水を買おうとしたら、ナース帽をかぶった女性が受付をしていた。
「薬局の店員がナース帽かぶるのは違くないですか」と聞くと、
「気持ちが大事なのよ」と言って、錠剤カプセルのクッションを抱いていた。
水は買えなかった。

友達の家に着いた頃には夕方だった。
インターホンを鳴らしても出かけているらしく応答がない。
さっきの鍵を試しに差し込んでみたが、もちろん開かなかった。